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大阪高等裁判所 平成7年(行コ)12号 判決

兵庫県姫路市辻井一丁目三番三三号

控訴人

竹中正

兵庫県姫路市御国野町国分寺五三四番地

控訴人

竹中冨久子

岡山市福泊一六八番地の八

控訴人

河合英子

兵庫県姫路市町の坪三九九番地の六

控訴人

長谷川八重子

兵庫県姫路市町の坪三九九番地の六

控訴人

竹中英樹

名古屋市昭和区山里町一六〇番地

控訴人

玉田正子

岡山市新京橋一丁目七番一五号

控訴人

竹中武

右七名

訴訟代理人弁護士

中村勉

兵庫県姫路市北条字中道二五〇番地

被控訴人

姫路税務署長 今井広正

右指定代理人

白石研二

巖文隆

西田茂夫

石井洋一

岩城美津男

山内悟司

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、控訴人竹中正(以下「控訴人正」という。)の被承継人竹中正久(以下「正久」という。)に対して昭和五七年九月一六日付けでした昭和五四年ないし昭和五六年度分の所得税決定および重加算税賦課決定処分のうち、原判決添付別紙一の同控訴人主張額欄記載の額を超える部分を取り消す。

3  被控訴人が、被相続人正久の相続に関する相続税につき、平成二年六月二〇日付けでした原判決添付別紙二記載の各控訴人に対する相続税更正処分、控訴人竹中冨久子、同河合英子、同長谷川八重子、同竹中英樹、同正、同玉田正子に対する無申告加算税の賦課決定処分、同竹中武(以下「控訴人武」又は「武」という。)に対する重加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同じ。

第二主張

次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の訂正等

1  原判決中、各「別紙」と各「別表」の前にいずれも「原判決添付」を付加する。

2  原判決三枚目裏三行目の「甲事件」を「原審昭和六一年度(行ウ)第一六号事件」と訂正する。

3  同九枚目裏九行目の「内妻」の前に「正久の」を付加する。

4  同一一枚目表八行目から九行目の「(以下「武」という。)」を削除する。

5  同一八枚目裏五行目の「乙事件」を「原審平成三年(行ウ)第三九号事件」と訂正する。

二  当審における控訴人らの主張

1  (控訴人正)

原判決添付別表記載の各預金のうち、◆印を付した預金は竹中組の積立金制度に基づくものであり、この積立金制度の存在は次のとおりと認められる。

(一) 竹中組においては毎月組員からその身分(舎弟、副組長、若頭等)に応じて会費を徴収し、これを組の運営費用(事務所の電話代、若衆の小遣銭、冠婚葬祭等)に充ててきたが、昭和三七年に正久ら約一〇名の組員が傷害、凶器準備集合罪等で福岡県警に逮捕された際、差入れや釈放後の旅費に不自由したことを契機に、控訴人武の発案により、同年三月六日の竹中組総会で積立金の制度が生まれたものである。右積立金の金額は、各人の自発的な意思に委ねられており、毎月集金して萩原公明が保管し、毎年一二月の事始めにおいて会計報告がなされていた。

(二) 右積立金の使途は、主として組事務所の増改築費、昭和五五年のいわゆる姫路事件に際して一〇〇〇万円、倉吉の佐々木組若衆の件で一〇〇万円等のほか、逮捕・服役の組員に対する差入れ費用や家族の生活費、保釈金、弁護士費用等であり、積立金はいわば組員の共済的な性格をもつものである。

(三) 組員の中には、積立金制度を知らない者や、当局に知らない旨を述べた者がいるが、これは、昭和五七年当時の組員は殆ど昭和三七年の積立金制度を認識していなかったり、仮釈放の障害又は課税を危惧して、服役中の者の家族の生活費や差入れの費用が竹中組から出ていることを秘匿するために、知らない旨述べたのである。

現に平成三年には、控訴人武が、かつて組員の警察官襲撃事件の被害者のために兵庫県警の要請に応えて、同年三月一三日、五〇〇万円を地方公務員災害補償基金兵庫県支部長宛に送金したことがあり、警察も竹中組の積立金制度を知っていた。

2  (控訴人正)

原判決添付別表1ないし3の貸付金は、原判決添付別表6の原告主張欄記載のとおり認められる。

(一) 正久の検察官に対する供述の中で、貸付金の事実を否定したことをそのまま受け入れるべきでなく、貸付の相手方をそれ以上に明らかにしたくない意向の表明と理解すべきである。すなわち、正久は、所得税法違反事件において、貸付金やその返済がどのような意義や効果をもつものであるかを全く認識しておらず、また、貸付金の存在についても借受人の名前を明らかにすることにより、その借受人が取調べを受ける等の迷惑をかけることを避けるために、A、B、Cの符号を用いて最小限度に供述したものである。

(二) 本件のような貸付は巷間行われている通常の消費貸借の形態と異なるものであることは明らかであるが、正久を始めとする組関係者の世界は、いわゆる任侠、男伊達、男の世界、男の美学を標榜し、これを究極の目標とする閉鎖的な社会であり、金銭の貸借においても借用証書も徴せず、利息の定めもなく、保証人等の担保も徴さないことが通常であり、返済を怠る等の行為があった場合には直ちに組関係から指彈され、斯種世界から放逐されるものであり、もしそのような制裁を受ければ生活の基盤を根底から破壊されるものであることからして、組関係者間の内部の規範は守られており、一般通常人間の借用証書を作成したり、保証人等の担保を徴した場合より余程うまく機能しているのであり、組関係者間の貸借が巷間の貸借と形態が異なるからといってその貸借自体に疑問はない。

(三) 正久は、昭和五三年七月ころ服役中であったが、面会に訪れた控訴人武に対し、「加茂田と細田に金を貸してあるので催促してくれ。」と言ったとおり、加茂田と細田に貸付をした当時、右両名とは極めて友好的な間柄であり、右両名の強力な支持もあって正久が三代目山口組若頭に就任したものであり、当時から肝胆相照らす仲であった。

3  (控訴人ら)

原判決添付別表6の控訴人武の一億円について

(一) 牧野繁實(以下「牧野」という。)の武に対する合計一億円の貸付については、無利子、無担保で借用証書の保管等も笹部静夫に委ねており、牧野は当時武とは一面識もなかったことは事実であるが、その連帯保証人は正久であり、同人は当時山口組の幹部で竹中組の組長であり、間もなく四代目山口組組長にまで就任した者であり、正久の保証とあれば通常の事業家や金融業者に対するよりも、さらに返済が確実視されていたのであって、保証人や物的証拠を徴しなかったからといって異とするに足りない。

(二) 右借用証書の連帯保証人正久名下の印影が誰によって押印されたかは、関係者の供述に食い違いがあるが、正久本人は自己の印章によるものであることを一貫して認めており、同人によって連帯保証されたことは明らかである。

(三) また、牧野は、右一億円の出所について明確な供述をしていないが、これは牧野としては、税務署を相手とする訴訟において裏金作りの方法を具体的に供述する筈はなく、同人の表面上の所得が会社役員として月額五〇万円、部落解放同盟の世話役として月額五〇万円しか収入がないという一事をもって、タンス預金の存在を否定することはできない。

第三証拠

原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の正久に対する本件甲処分及び控訴人らに対する本件乙処分のいずれも適法であり、控訴人正及び控訴人らの本訴各請求はいずれも理由がないから棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

当審における控訴人らの主張は、概ね原審において主張したところを重ねて述べるものであって、この主張及び当審における証拠調べの結果によっても右判断を変更すべきものとは認められない。

1  原判決中、各「別紙」と各「別表」の前にいずれも「原判決添付」を付加する。

2  原判決二四枚目表一一行目の「甲事件」を「原審昭和六一年(行ウ)第一六号事件」と訂正する。

3  同二七枚目裏末行の「3」を「5-3」と訂正する。

4  同二八枚目表初行の「別表10」を「別表10」と訂正する。

5  同三三枚目裏五行目冒頭から同三四枚目表五行目の「その制度の成否」までを「しかしながら、右のような正久に帰属しない任意拠出による積立金制度が設けられていたとすれば、それは会費に加えて組員に多大の経済的負担を課するものであるから、その制度の存費はもとより管理運営方法等」と訂正する。

6  同三六枚目裏二行目の「水曜日」を「金曜日」と訂正する。

7  同三八枚目表二行目の「三一三」を「三〇九の各一、二、三一〇の一、、三、三一一ないし三一三の各一、二」と訂正する。

8  同四〇枚目表八行目の「山口」の次の「の」を削除し、同一〇行目の「三一〇」の次に「の一、三」を付加する。

9  同四〇枚目裏一行目の「このような供述」から同五行目末尾までを「このような供述をもって正久と同人らとの間に控訴人正主張の貸借があったと認めることはできない。」と訂正する。

10  同四一枚目表一行目の「回収された」を「返済され、その返済金が被控訴人主張の正久の資産に含まれ、その全部ないし一部を形成している」と訂正する。

11  同四四枚目表四行目の「日章技研総業」の次に「株式会社」を付加する。

12  同四五枚目裏三行目の末尾の次に「なお、甲三二九、三三〇、三三一の一、二によれば、牧野繁實が昭和五八年一二月一六日に土地(山林二〇〇七平方メートル)を購入し、昭和六二年三月三一日に同地上に居宅を新築したことが認められるが、この事実が直ちに右認定を左右するものではない。」を付加する。

13  同四七枚目表四行目と末行の各「甲事件」を「原審昭和六一年(行ウ)第一六号事件」と、同六行目の「乙事件」を「原審平成三年(行ウ)第三九号事件」とそれぞれ訂正する。

二  以上の次第であるから、控訴人正の原審昭和六一年第(行ウ)第一六号事件請求及び控訴人らの原審平成三年(行ウ)第三九号事件請求をいずれも棄却した原判決は正当であって、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中田耕三 裁判官 葛井久雄 裁判官 羽田弘)

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